- コンクールの曲が仕上がりません
- コンクールに向けて、どのように指導すればよいですか?
ピアノ教室の先生方から、このようなご相談をいただくことがあります。
現在、私自身はコンクールに関して、上記のようなお悩みはございません。
また、このようなご質問にお答えするまで「特別なことはやってないんだけどな…」と思っていました。
もちろん、先生方のお話を伺っていて「そういえば、私も昔はそうだったよなぁ〜」と思い出すこともあります。
では、現在の私とご相談くださる先生で何が違うのか?
それを、じっくり観察してみることにしました。
そして、そこからわかってきたことを以下にまとめてみました。
ぜぎ、ご覧いただければうれしいです。
よくコンクール出ますね
「よくコンクール出ますね」
現在、私の教室の生徒ちゃんの多くが、さまざまなコンクールに出場しています。
そしてそれらを、私の方から出場するよう押し付けたりは一切していないんですね。
親御さんのほうから、コンクールを見つけてこられて「これ(コンクール)に出場したいんですけど」とご相談いただくことも少なくありません。
もちろん私も、そのようなお申し出があったとき否定することはありません。
ちなみに、親御さんがご相談に来られた時点で、ほとんどのケースにおいて生徒ちゃん本人も出場したいという意志を持っています。
コンクールにおいて大切にしていること
私は、コンクールはあくまでも“通過点”だという考えを持っています。
そして、コンクールに出場をして1位を取ったり、優秀な成績を修めることを目的にはしていません。
ですので、1位を取るための指導といった風にはレッスンもしていなんですね。
もちろん、出場する生徒ちゃんがみんな上手に弾けて、みんな1位を取ったり入賞してくれたりしたら私もうれしいです。
けれどそれ以上に、私はコンクールという本番の舞台が、生徒ちゃんたちの“生きる力”を豊かに育む絶好の機会だと思っているんです。
ステージ上では、何が起きても自分の力でやり遂げなければいけません
また、どんな演奏をしても、すべて自分に返ってくるものです。
だからこそ、本番に向けてどのように仕上げるのか?どんな練習をどのくらいするのか?いつまでに仕上げるのか?
こういったことも、生徒ちゃん本人に考えてもらって、取り組んでもらうようにしています。
こうした一連の経験が、生徒ちゃんたちが成長し、社会でたくましく“生きる力”につながると考えています。
そして、生徒ちゃんたちに、どんなことでもいいので成功体験を持たせてあげることは心がけています。
- あくまで、コンクールは生徒ちゃんの成長過程のひとつであるということ
- そのために、今、何がこの子のために必要なのか?
- それを、コンクールで育むことができるのか?
- そして、コンクールでは受賞の先にある“生きる力”が成長できるようがんばろう!
私は、このような考えをつねにブログや教室だよりを通じて、親御さんにお伝えをしてきました。
もちろん、生徒ちゃん本人にも、ある程度、このことを理解してもらって、本人が出場するという意志を持ったうえでコンクールに向けてのレッスンをしています。
以上のことから、先生である私と、親御さん、生徒ちゃん、この三者の意識を同じくしたところからコンクールのレッスンは行われるべきだと考えています。
音楽が好きでいてほしい
逆に、三者の考えがバラバラだと、後々、問題が生じてきます。
冒頭に挙げた「コンクールの曲が仕上がらない」といったことですね。
また、1位をめざすことばかりに気を取られてしまうと「上手に弾かないといけない、間違っちゃいけない」という意識や教え方になってしまいかねません。
そうすると、親御さんもそのように家でお子さんに接するようになります。
その結果、家に居ても先生がいるような状態となり、やがてそれは音楽を好きでなくなっちゃうと思うんですね。
音楽が好きな気持ちが、ガラガラと崩れてしまう…。
ちなみに、ほとんどの親御さんはご入会を希望される理由として「音楽を好きになってもらいたい、ずっと好きでいつづけてほしいから」とおっしゃいます。
その観点からも、やはり音楽が好きでなくなっちゃうようなレッスンはすべきではありません。
自分で決めると、やり抜く
くり返しますが、コンクールに出場するかどうかは、生徒ちゃん本人が決めてもらっています。
コンクール開催を、ブログや教室だよりなどでお知らせはしますが、こちらから誘うことはしていません。
生徒ちゃんはかわいいもので「コンクールに出ておっきなトロフィーほしい、メダルほしい」といったことを言っています。
また、コンクールに出場するのがはじめての親御さんや、音楽経験のあまりない親御さんなどは、コンクールに出場して上手に弾けたら入賞できるものだと思っておられる方も少なくありません。
しかし、現実はそうではないですね。
むしろ、どんな競技でもそうですが勝てない、落ちちゃう人のほうが多いわけですよね。
ですので、生徒ちゃんや親御さんには「甘くはないですよ」ということもお伝えしています。
そのうえで、出場するので生徒ちゃんとしても覚悟がありますよね。
このように意志がはっきりしているのであれば、あとは私からはきっかけを与えてあげるだけで主体的にピアノに向かって一生懸命、練習するようになります。
- コンクールでどうなりたいの?
- そのためには、どうしたらいいと思う?
- それができるためには、どんな練習したらいい?
- どのくらい練習したらできそう?
- いつまでにそれができるようにならないといけない? etc
こうした質問を投げかけることによって、生徒ちゃん本人が考え、答えます。
そして、自分で答えたこと(=決めたこと)は、ちゃんとやり抜くようになります。
もちろん、選曲の相談にも乗りますし、ある程度のコンクールに向けての計画も立てます。
また、意外と子どもたちは時間感覚に乏しいところがあります。
ですので、折を見ては「〜〜まで、○○できるようになろうね」や「コンクールまで、あと○日だよ」、「教室に来て練習できるのは、あと何回か数えてみて」といったことを伝えるようにしています。
こちらが、コンクールに向けてのペースを調整してあげることは必要だと思います。
恥でも何でもかいてきなさい
それでも、どうしてもコンクールに万全で臨めない場合もあります。
けれども、私はそれすらも経験だと思うんですね。
弾けない状態で出場したらどんなことになるのか?を経験すれば、それはまた今後に活きると思っています。
先ほどもお伝えしましたが、計画通り進められるようにクギを刺すこともありますが、それでも本人が練習しない、仕上がってこなければ、それで出場しても仕方ないと思っています。
気持ち的には「どんな状態であれ、出場して自分で責任取ってきなさい」、「恥でも何でもかいてきなさい」という想いです。
補講は希望されたときにだけ有料で
コンクールに関するお悩みをご相談くださる先生の中には、課題曲が仕上がらずにコンクール直前に補講に来るよう、生徒ちゃんに申し伝えておられる方もいらっしゃいました。
そして、無料で補講をなさっておられるんですね。
無料で補講してもらえたら、ありがたいですし親切ですよね。
けれど、それが当たり前になると、生徒ちゃんも親御さんの中に「先生が何とかしてくれるだろう」といった、ヘンな甘えを生んでしまうことがあります。
ですが、どこまで行っても、ステージの上では先生は何とかしてくれません。
ですので、練習のときからできるかぎり自分で何とかできなくてはいけません。
そのため、私は自分からは「補講に来なさい」と言わないようにしています。
生徒ちゃんまたは親御さんが「補講をお願いします」と申し出られた際に、有料でお受けするようにしています。
なぜ有料なのか?と言うと、そのほうが生徒ちゃんも親御さんも真剣に補講を受けられる傾向があるからです。
また、先生も一層、責任感が強まります。
ただ、このようなケースの多くは、やはりはじめの意識のすり合わせが曖昧であることが大元の原因なのだと思います。
成長に気づかせてあげる
そのような過程を経て、生徒ちゃんも親御さんも一生懸命練習をし、そのおかげでコンクールで1位を取れる場合もあります。
逆に、一生懸命練習したけれど、入賞できないケースもあります。
コンクールは、ある面においては勝負事であって“勝負は時の運”というところもあります。
たまたま自分の前の子が大きくて、その子のイスの高さから自分に合った高さにうまく合わせられないまま演奏することになってしまったり、または棚ぼた的に入賞することがあったり。
さらには、審査員の基準によって評価が分かれることもあります。
けれどそれらを含めて、うまく行くかどうかは“自分の努力以外の要因もある”ということが体験できることも、これからの人生においては大切な経験だと私は思うんです。
そのような観点からも、やはり1位だとか入賞を意識しすぎるべきではないと私は思っています。
もちろん私も、生徒ちゃんたちが1位になったり入賞してくれたらうれしいです。
そして、結果を求めすぎないと言っても、どうしても結果に意識が向くことは仕方ありません。
だからこそ、先生は結果に一喜一憂せず、本番を終えるまでの過程で生徒ちゃんがいかに成長できたのか?を気づかせてあげてほしいと思うんですね。
例えば、小さい生徒ちゃんなんかは「ちゃんとできたはずなのに、メダルがもらえない」なんて、泣きじゃくる子もいますよね。
そのように、望んだ成果が出なかったときでも、私はこんな風に伝えています。
- 〜〜が弾けるようになってすごいね
- コンクールに出場するってすごいね
- (2回目以降の出場の場合)前回に比べて、堂々と弾けるようになったね
- たまたま今回は、審査員の先生には届かなかったけれど前はこんなスピードで弾けなかったよね
- 今は、こんなに右手が動くようになったじゃない etc
結果に結びつかないことで、親子ともどもやる気が失せてしまうことが、一番怖いこと。
そして、どれだけ“成長”を目的としていても、結果には左右されてしまうもの。
だからこそ、先生が成長に“気づかせてあげる”ことは大切だと考えています。
何度もチャレンジしつづける姿は素晴らしい!
実際に、生徒ちゃんたちはものすごく低い点で評価されているわけではなく、入賞している子たちと比べても本当に僅差なんですね。
だからこそ、本人も手応えを十分に感じていたのだと思います。
こうしたことをお伝えすると、不思議なくらいみんなまたがんばりはじめるんですね。
打たれ強いのか、落ちても落ちてもコンクールに出場しつづけるんです。
でもきっとそれは、コンクールを通じて“成長”することに重きを置いているからだと思います。
このように、三者の意識が同じものであれば、コンクールは生徒ちゃんたちにとって“かけがえのない経験”をもたらしてくれます。
やはり、コンクールに出場すると、生徒ちゃんの意識が変わりますのでピアノに今まで以上に打ち込むようにもなります。
本番は楽しく!
このような考えと取り組みによって(手前味噌ですが)、当教室の生徒ちゃんたちはコンクールで一定の評価をいただける結果を出しておられます。
もちろん、生徒ちゃんも親御さんもコンクールに出場したい、そこでいい成績を修めたいと思って、一生懸命がんばられた結果だと思います。
ただ、それらを見るにつけ、私は「本番は、楽しく弾けること」が理想だと思っています。
おそらく、本番を一番楽しく弾けた子が賞をもらっているのだと思うんです。
だからこそ「音楽が好き」な気持ちを大切にしながら、楽しんでコンクールに出場をしてもらいたいと、いつも私は思っています。
意識を共有するうえでブログを活用
最後に、このブログで一番お伝えしたかったことは、コンクールにおいて「三者の意識を合わせましょう」ということです。
そして、コンクールに対する私の想いを、私はブログや教室だよりでつねにお伝えしてきました。
それを親御さんが見てくださり、その積み重ねによって理解を深めてくださったのだと感じています。
ちなみに、コンクールの案内もブログ・教室だよりでしていますが、それは開催日時や場所を“さらっと”紹介する程度に留めています。
そして、私から口頭でコンクールの案内をすることもありませんし、出場をお誘いすることもありません。
そのうえで、出場したいと言われても出場されなくても、どちらもOKです。
「今年は受験だから、やめておきます」も、もちろんOKです。
生徒ちゃん・親御さんの意志に委ねています。
また、音楽レベル的に全員を誘うことはできないこともあります。
その場合、個別に声をかけると、後々「私は、誘われてない」といったトラブルにもなりかねないので、個別には声かけもしていません。
間接的ではありますが、ブログ・教室だよりといった媒体を活用し、伝えつづけることが押し付けがましくもならず最適な方法だと考えております。
先生方のコンクール対策のお役に立てれば幸いです。