もう何十年も前のことですが、当スクールの生徒ちゃんがコンクールに出場したときのことです。
“ドレスコード”で、生徒ちゃんを叱ったことがありました。
コンクールなのに“Tシャツ・短パン・つっかけ履き”で、出場していたんですね。
少なくともそのコンクールでは、ドレスコードはありませんでした。
ですが、クラシックのそもそもの歴史や背景を考慮しますと、必ずしも普段着でいいというわけではありません。
クラッシックの成り立ちをざっくりと説明しますと…
ご存知の方も多いと思いますが、クラシックはもともと神様や王様に捧げるための音楽として演奏されていたという成り立ちがあります。
そのため、クラシックは一般庶民が広く楽しめる音楽ではなかったんですね。
また、歴史的にはモーツァルト(1756年 – 1791年)が活躍した時代くらいまでは、クラシックの音楽家は社会的には国家公務員のような立場だったそうです。
そして、献奏する音楽であることから作曲にも制約があったと言われています。
ちなみに、学校の音楽室などにはモーツァルトをはじめ歴史上の有名な音楽家の肖像画が掛けられていることがありますよね。
それらを見ると、多くの音楽家が長い白髪で髪がカールされています。
実は、あれはカツラなんですね。
当時は、演奏時などにカツラをかぶるのもマナーだったんです。
しかし、ベートーヴェン(1770年 – 1827年)が活躍するぐらいから、規制がゆるくなって行きました。
カツラをかぶるマナーもなくなり、ベートーヴェンなどはけっこう髪型が爆発しています(笑)。
いずれにしても、こうした経緯からドレスやタキシードが正装になったという歴史があります。
保護者の方にお手紙を書きました
そこで当時、私はこのような経緯を丁寧に保護者の方にお手紙でお伝えをし、生徒ちゃんにもつぎのように伝えました。
「そういう歴史があるから、カツラをかぶれとは言わないけれどコンクールでTシャツ・短パン・つっかけはやめようね。だって、神様の前で“イェイ!”とかってしないでしょ?これからは、あなたはお姫様、王子様になって弾くのよ」
もちろん、一番大切なことはこうした経緯を理解したうえで、TPOに合わせて臨機応変に対応できることだと思います。
例えば、アニメの曲などは、楽しませようという意図で作られていますから弾くだけで楽しいものです。
いわば、アニメで使われている曲は「楽しませる音楽」と言えます。
そんなときには、曲の世界観に合わせて普段着のほうがより楽しさを演出できる場合もあります。
ですので、どんなときも普段着での演奏がダメというわけではありません。
しかし「何も知らずに普段着というのは恥ずかしいこと」だと、私は生徒たちには伝えるようにしています。
とりわけクラシックは、演奏を聴くときにマナーが求められますが、実は弾き手にもマナーがあります。
「弾くマナーと聴くマナー」があってこそ、ひとつの空間でクラシックが最適に奏でられるのだと私は思います。
今は、カンタンに衣装が手に入る時代です
今は、ドレスもネットでポチッと押すだけで明日にはお家に届くような時代です。
種類もサイズも豊富ですしね。
けれど、まだネットがなかった時代には、私は知り合いから着なくなったドレスをもらって、教室に置いていました。
知人のダンススクールの先生に、ドレスを譲っていただくようお願いしたこともありました。
そのときは、ダンスの衣装のようにボディラインがキリッと出たようなドレスをくださいましたね。
靴も何足もありましたので「ウチは靴屋さん?、貸衣装屋さん?」なんて思うこともありました(笑)。
ちなみに、それらは2021年に教室を移転する際に、生徒・保護者の方たちお声がけをして差し上げました。
実物を見ると、生徒ちゃんも着たくなりますし、そういう姿を見ると親御さんも着させてあげたい、買ってあげたいと思われているようでしたね。
でも、そのうちまたドレスが増えると思います。
なぜなら、生徒ちゃんたちが大きくなって着られなくなったら「誰かに差し上げてください」と持ってきてくださるからです。
ですので、これをご覧の先生方におかれましては、保護者の方に「大きくなって着られなくなったら、お持ちください」とお声がけをしていただければと思います。
そうすることで、安心してドレスを購入する方もおられると思います。
衣装ひとつで演奏が変わる!
「ドレスやタキシードを着てね、これからはあなたはお姫様、王子様になって弾くのよ」
ほんの些細なことかもしれませんが、こうしたことを伝えると生徒ちゃん自身の意識が変わります。
また、実際にドレスやタキシードを着ると、さらにお姫様感、王子様感が増すんですね。
そして実は、それだけで弾き方が変わります。
弾き方だけでなく、歩き方までも変わります。
猫背ぎみで歩いて子が、ピンと背筋が伸びて歩くようになるんです。
そういう姿を見ますと、衣装も演奏力を高めるうえで大切な要素なのだと感じさせられます。
意識が変わって、音色が変わる。
ちなみに余談ですが、普段(あまりお家から出ずに)、ゆるゆるの服を着つづけていたらウエストがなくなるなんて言いますが、それも意識がそうさせるものなのかもしれませんね…。
すみません、話が逸れてしまいました。
ママ、キレイ!
当スクールでは、毎年、発表会で親子で連弾を披露していただくなど、親御さんにもご出演いただいております。
そんなときには、親御さんからも衣装についてご相談をいただきます。
こちらからドレスをお貸しして着られた方もおられますし、入学式などで着られるようなお洋服で出演なさる方もおられます。
また最近は、大人・子どもにかぎらず衣装をレンタルすることもカンタンにできます。
借りるのであれば、衣装にかかる費用としてはレンタル代とクリーニング代くらい済みます。
経済的なご負担も小さく済みますので、お勧めですね。
いずれにしましても、ドレスなどを着られるとお母さん方もうれしそうなんです。
「ステキ!ステキ!」なんて言ってはしゃいでおられたり、生徒ちゃんも「ママ、キレイ!」なんて言っていますしね。
そうなると、ママは子どもそっちのけで(おばあちゃんに任せっきり)、自分の衣装のほうが気になっていたり(笑)。
そんな姿を、パパはカメラマンで協力。
とても幸せな光景で、見ている私のほうがほっこりとしています。
脱ぎなさい(苦笑)
長くピアノ教室をやっていると、こんなこともありました。
あるときに、わざわざ夜に電話をかけてこられたお母さんがいらっしゃったんです。
お母さん「先生!ドレス着れました、着ちゃいました」
私「は?(どういうこと?)」
お母さん「私が今着てるんです!子どもがお風呂に入ってるので、その間に私が袖通してみたら着られたんです!」
私「脱ぎなさい:苦笑」
声がルンルン♪なんですね(笑)。
ドレスを見てみたら、お母さんも着てみたくなったのだとか(笑)
今だったら、LINEで写メを送って来られるかもしれません。
生徒・保護者との信頼関係が深まります
元はと言えば、生徒ちゃんがドレスコードを理解していなかったことがきっかけでした。
くり返しますが、今ではコンクールでも厳正なドレスコードはあまりありません。
ですので、何を着て出場してもいいといえばいいんですね。
だから「たかが衣装」と思われるかもしれません。
でもその一方で「されど衣装」なんです。
衣装について考えることをきっかけに、生徒ちゃんの意識および演奏力が高まります。
それだけでなく、上記で紹介したようなコミュニケーションが先生と生徒・保護者の方との間に生まれます。
そして、このようなコミュニケーションから保護者の方との信頼関係が深まることは少なくありません。
信頼関係が深まれば、こちらからのお願いもすんなり協力してくださるようにもなります。
私は、最適な教室経営のカギは、生徒・保護者の方々との密なコミュニケーションだと考えています。
そこで、そのきっかけとして今一度、生徒・保護者の方々に「衣装について」お伝えになられてみてはいかがでしょうか?
そして、衣装についてお互いがルンルン・ワクワクしながら、コミュニケーションが図れるといいですね。
先生と生徒・保護者のみなさんとの最適な関係構築に、お役立ていただければ幸いです。