「お母さんが悪い!だって、お母さんがいつも爪切るの。お母さんが言わないからこんなになったんだ」
生徒ちゃんを、泣かせてしまいました
先日のレッスンでのことです。
その日は、19:30から小学校3年生の男の子のレッスンでした。
ちょっと甘えんぼちゃんの、かわいらしい男の子なんですね。
いつもお母さんが付き添いで来てくださるのですが、この日は生徒ちゃんもお母さんもお顔が真っ赤に日焼けされていました(前日が、運動会だったそうです)。
そんな翌日の夜も遅いレッスンなので、教室に入ってきた時点で「疲れているかな?」という印象が見て取れました。
だから、泣いちゃったのは、疲れていたのもあるのかな?と思います(小さいお子さん“あるある”ではないでしょうか?)。
爪切らないとできないよね
レッスンをはじめようと思ったときに、私は生徒ちゃんの爪が伸びていることに気がついたんです。
そこで、私がひと言。
「爪切らないとできない(ちゃんと弾けない)よね」
これをご覧の先生方も、このようなご経験がおありではないでしょうか。
ちなみに、その後、生徒ちゃんがお母さんのほう見て、冒頭の言葉を言ったんです。
「お母さんが悪い!だって、お母さんがいつも(ボクの)爪切るの。お母さんが(爪切るって)言わないからこんなになったんだ(=爪が伸びた)」
それに対して、私はこう言いました。
「あなた、それは違うでしょ?爪切ってもらうのは、お母さんに切ってもらってもいいけれど、爪が伸びたかどうかはお母さんはわからないでしょ?教室に来るときだけじゃなくて、家でも爪切って練習しないといけないでしょ?爪が伸びたかどうかはあなたがちゃんと判断しなさい。」
そしたら、び〜〜〜っと泣き出しちゃったんですね。
必ずお母さんの前で泣かせます
私自身は、決して生徒ちゃんを泣かせるつもりで言ってるわけではないんですね。
でも、生徒ちゃんによっては、またタイミングによっては泣いちゃうこともあります。
ただ、私は生徒ちゃんを泣かせるときには、必ずお母さんの前で泣かせるようにしています。
なぜならそれは、誤解を生まないためです。
少し話が逸れますが、生徒ちゃんたちが言うには学校の先生の中には授業参観など親御さんがいる前では笑顔で優しいけれど、生徒たちだけのときには怖い先生がいらっしゃるようなんですね
もちろん、大人数を相手にする学校の先生にも大変なご苦労がおありだと思います。
しかし結局は、授業参観のときだけ笑顔でも子どもたちは日頃の先生の様子を家で親御さんに話しているみたいなんですね。
ですので、先生が普段どんな方なのか?は、親御さんもある程度は知っておられると思います。
みんなにとっていいレッスンを提供する
話を戻しますと、ピアノ教室もそれと同じだと思うんです。
生徒ちゃんだけでレッスンに来たときの先生の様子を、お家で親御さんに話しているはずです。
レッスンで注意を受けたりしたことも、話しているかもしれません。
このとき、ある程度、長く通われている生徒ちゃんの親御さんなら、先生の言動に対して深い理解を示してくださいます。
また、先生としても、後から親御さんにLINEなどでフォローのメッセージを送ったりもしやすいと思います。
なぜなら、信頼関係が築けているからですね。
しかし逆に、まだ通われている期間があまり長くなかったり、信頼関係が十分に築けていない場合には、レッスンでの言動が誤解して伝わるリスクがあります。
それって、誰にとってもマイナスなことだと私は思うんですね。
だからこそ、私は生徒ちゃんに対して厳しい指摘をするときは、必ず親御さんがおられる前で言うようにしています。
そのようにすれば、親御さんとしてもお子さんが「なぜ、注意を受けているのか?」、「何に対して叱られているのか?」わかりますよね。
子どもは大人をよく見ています
ちなみに、誤解を怖れず申し上げると、子どもちゃんは先生と1対1のときにはきちんとレッスンを受けていても、親御さんがいるときにはおふざけしたりすることがあります。
(無意識にも!?)「先生は、親がいる前では“いい顔”をして、ふざけたりしても何も言わないだろう」とタカを括っている場合があるんですね。
だからこそ私は、いつもニコニコとして何でも許す先生ではいないようにしています。
なぜ私は、ときには厳しく生徒ちゃんを注意するのか?というと、それは子どもたちにピアノを通じて自立をしてほしいと思っているからです。
もちろん、ピアノ教室ですのでピアノが上達することやコンクールで入賞してほしいという気持ちもあります。
しかしそれと同じくらいに、私は子どもたちが自立できる機会を与えてあげたいとも思っています。
なので、先の“爪切り”の話などのように、ささいなことですが「爪を切って」と生徒ちゃんが自分で言えるようになってほしいと思うんです。
コンクールは、生徒ちゃんが出場したいと思うことが大切
「ピアノを通じて、子どもたちが自立できる力を育む」
こうした想いで、長年レッスンを行ってまいりますと、コンクールなども生徒ちゃん本人の意志で出場するようになってきました。
現在は、ほとんどの生徒ちゃんが親御さんが出場させたいからコンクールにエントリーするのではなく、自分が出たくて親御さんがコンクールを探されて出場しています。
ですので、私のほうで出場を指示したりもしていません。
そして、このように自らの意志でピアノに向かう生徒ちゃんたちのほうが、ピアノを楽しくつづけています。
誤解を生まずに、信頼関係も深まる
ちなみに、レッスンに親御さんが付き添われるケースというのは、通いはじめてまだ間もなかったり年齢が小さいお子さんが多いですよね。
つまり、これから信頼関係をしっかりと深めて行く必要のある生徒・保護者の方である傾向があります。
また、子どもちゃんはちょっと言葉足らずなところもあって「今日、先生に怒られた」といったことだけを伝えたりすることもあると思うんですね。
しかし、生徒・親御さんと信頼関係が築けていれば、親御さんは何かを察してくださって「あんたが何かやったんでしょ!?」的なことを子どもちゃんに伝えたうえで、より深く理解しようと努めてくださいます。
すると、生徒ちゃんも親御さんにきちんと状況を説明してくれる場合もあると思います。
けれど、信頼関係が築けていなければ「何で!(怒)」になってしまいかねません。
だからこそ私は、親御さんの前でも「ダメなことはダメ」だと言える自分でいたいと思っています。
そして「ここはそういう教室なんですよ」ということをわかっていただいたうえで子どもちゃんを通せる親御さんは、何かしら疑問があったら「どういうことですか?」と聞いてくださいます。
そうすると誤解が生じにくいですし、信頼関係も深まりやすくもなります。
というか、正直に私の本音を申し上げれば、親御さんの前で怒るとその場で終わるので一番めんどくさくないんですね。
理解・協力してくださる親御さんたち
先ほどの爪切りのお話には、もう少しつづきがあるんです。
び〜〜〜っと泣いちゃった後なので、ちょっとふてくされてと言いますか乱暴気味にピアノを弾いちゃっていたんですね。
そこで、私がまたひと言。
「それって、ピアノに八つ当たりしてる弾き方だよね。疲れてるのはわかるけど、そういうことしちゃダメだよね」
でも、こういうときって、やっぱり生徒ちゃんとしては何か優しい言葉をかけてほしいと思うんですよね。
ちょっとフォローしてもらいたいというか…。
だから(私が厳しく言うものだから、フォローしてほしくて)、ちらちらとお母さんのほうを見たりするんです(かわいいですよね)。
だけど、そういうときお母さんは知らんぷりして何もおっしゃいません。
こちらを信頼して、任せてくださるんですね。
そのように協力してくださる、お母さん方もとても偉いと感じるとともにありがたく思います。
見守って、口出しをしないでいてくださっているからです(心から感謝とリスペクトをしています)。
ちゃんと口に出してね
お母さんが何も言ってくれないものですから、生徒ちゃんは今度は私のほうに何か言いたげな表情を向けるんですね。
そこで、私がまたまたひと言。
「そんな目で見てたってわかんないよ。今、何が困っているの?ちゃんと口に出して言ってごらん」
(楽譜を指差して、泣きながら)「これ(音楽記号)がわからん…グスン(涙)」
すでにお気づきの先生もおられると思いますが、このときがこの生徒ちゃんにとって自立の機会になります。
そのときを見落とすことなく、ちゃんと褒めるように私は心がけています。
「ちゃんと言えたじゃない、偉いね」
ちゃんと言えたじゃない、偉いね
ちなみに、このときにはこんな話も生徒ちゃんには伝えました(親御さんも聞いておられます)。
「お母さんは、あなたが何も言わなくてもわかるんだよ。あなたは、お母さんのお腹の中にいたんだからね。だから、お母さんはあなたが何も言わなくてもわかるの。今、何を考えているか?、今、何を悲しんでいるかまでわかるんだよ、すごいよね。だけど、先生はわかんないよ。他の人もわかんないよ。だから、ちゃんと自分の気持ちを言わなきゃいけない。わかんないことは、いけないんじゃないよ。モジモジしてわかんないよりも、自分が今、何で困ってるのか?をちゃんと言うんだよ」
とはいえ、泣いたままで終わってはいけませんし、お家でピアノの練習もきちんと取り組んでもらわないといけません。
だから、最後まできちんと伝えるべきことは伝えて終わりました。
「次回までに、ここ(楽譜)に書いてあることに注意してちゃんと自分で練習する。爪を切る。そしたら、きっと素敵な演奏になるよ。だから、今度のレッスン楽しみにしてるからね。今日はよく来たね、がんばったね。」
するとこの日、親御さんはレッスン終わりに「今日は、ありがとうございました」と言って帰られました。
こうしたやり取りを通じて、私は生徒ちゃんができていること、がんばったことに対してはきちんと認めて伝えるようにしています。
なぜなら、それによって“きっと心を開いてくれる”、“信頼してもらえる”と信じているからです。
そして(くり返しになりますが)、信頼関係が築けていればこちらの注意も素直に受け入れてくれるようになります。
はじめからはできませんでした
つらつらと、ここまで私の考えや体験談をお伝えしてきましたが、実のところ上記のようなことを私がはじめからできたわけではないとお察しかと思うんですね。
若いときには、なかなか親御さんの前で生徒ちゃんを叱るということはできませんでした。
ある程度、年齢や経験を重ねてきたことで言えるようになってきたことは事実です。
しかしもし、現在の私が、駆け出しだったかつての自分にアドバイスできるとするなら、つぎのことを伝えると思います。
「一緒に協力して、お子さんを成長させて行きましょう」っていう気持ちで親御さんに寄り添うことが大切です。
今でこそ、私はブログだったり教室だよりだったりで、親御さんに向けて「いつも応援してます」や「一緒に協力して、お子さんを成長させて行きましょう」といったメッセージを書き綴ることがあります。
ですが、私自身の若いときを振り返ると、そういう気持ちが今と比べると薄かったとすごく思います。
なぜか当時の私は、親御さんをどこか“怖い存在”のように思い込んでいたふしがあったんです。
独身だったこともあったり、年齢的にも親御さんのほうが年上だったりもしましたので「こんなこと言ったら失礼じゃないか?」とか「反論されて、太刀打ちできなかったらどうしよう?」といった考えが頭をもたげることもしばしばでした。
また私自身、子どもに恵まれず実際に子どもを産んだ経験がありません。
そのため、とりわけ若いときには「お母さんとしての愛情」が自分にはなかったり、理解ができていないんじゃないかと非常に自信が持てませんでした。
そういったこともあって、親御さんに自分の考えを伝えるということがなかなかできなかったんです。
先生も親御さんも気持ちは同じ
でも、おわかりのとおり、すべては私の勝手な“思い込み”だったんですよね。
事実、親御さんに何か反論されたり、太刀打ちできなかったことはありませんでした。
なのに、勝手に恐怖心などが先立ってしまって、親御さんと一緒になってお子さんを育てるという意識が薄かったと思います。
だけど、当然ながら親御さんはお子さんのことが大切です。
もちろん、私も生徒ちゃんのことは大切です。
そして、親御さんも私も共通の願いは生徒ちゃんの成長です。
また、どの親御さんも、しつけの悪い子に育てたいと思っていませんよね。
爪切りを例にとっても、いつかは自分でできるようになったほうがいいと思っていらっしゃいます。
いずれは、お子さんが自立することを求めていらっしゃいます。
それらを踏まえると、誤った思い込みをせず「一緒に成長させて行きましょう」という気持ちで親御さんに寄り添うことができれば、言えることもあったと今となっては思います。
- 「こんな感じにしたいと思います」
- 「こうして行きましょう」
- 「こうしたいんですが、どんな風に言ったらいいですか?」 etc
当時の私に足りなかったのは「怖がらずに、寄り添う気持ち」だったと思います。
一緒に成長させていきましょう
今では、さまざまな経験を経ておりますので、体験レッスンなどではじめて当スクールでレッスンを受けられる方には、事前に親御さんに「気をつけることありますか?」と伺うようになりました。
「(お子さんのことを)なんてお呼びすればいいですか?、お家ではどんな感じで呼んでますか?」と伺うこともあります。
やはり、子どもたちはひとりひとり個性的です。
そして、親御さんの中にはピアノを習わせたいけれど「すごく人見知りするので…」と心配している方もおられます。
または、脳に障害を持っているお子さんが来られるケースもあります。
だけど、みなさんピアノを習いたいと思って当スクールを選んで来てくださっているわけですよね。
そのような想いを感じますと、はじめから「一緒に協力して、お子さんを成長させてあげましょう」という気持ちで生徒・保護者の方に接するようになったんですね。
すると、なんとなくではありますが、お問い合わせの時点で心を開いてくださっているようにも感じるんです。
だから、はじめから私がそのような気持ちで接することができていたらなぁ…とも思っちゃったりもします。
今の経験や知識があって、●十年前に戻ることができたら、すごい教室になっていたんじゃないかと…(笑)。
そんな冗談はさておき(苦笑)、私の経験が先生方に何かしらのお役に立てればという想いから、今回のブログを書かせていただきました。
ぜひ、先生方とも一緒に協力をして、生徒ちゃんたちの成長をお手伝いできればと思っています。
いつも先生を応援しています。
最後まで、ご覧くださいましてありがとうございました。